看取りへの対応

これまで当院では、多くの患者さんの最期に立ち会わせていただいてきました。

患者さんの体調がすぐれないときには、できる最良の医療を届けたいという思いで診療にあたっています。

その一方で、当院で訪問診療を行う患者さんの多くはご高齢で、何らかの病気を抱えておられます。

だからこそ、いつか訪れる最期の時に寄り添うことも、私たちにとって大切な役目のひとつだと考えています。

患者さんが穏やかに、その方らしく過ごせるように。

私たちが、最期の大事な時間の中で大切にしていることを、このページでご紹介しています。

また、これまで当院で診療を受けられた患者さんのご家族から、お手紙をいただくこともありました。

このページが、同じような時間を過ごされている方にとって、少しでも助けや安心につながればと思い、ご許可をいただいたうえで、お手紙の一部を掲載しています。

なお、掲載にあたっては、読みやすさを考えて文字起こしをしています。

私たちが大切にしていること

私たちは、日々進歩する医療のなかで、常に新しい知識を学び、それを患者さんお一人おひとりの診療に生かせるよう努めています。

病気に対しても、年齢を重ねることに伴う変化に対しても、あきらめることなく、患者さんにとってよりよい時間を支えるための最良の医療を大切にしています。

けれども、どなたにも、いつか最期の時は訪れます。できることを一つひとつ重ねたうえで、その方の命の終わりを静かに受けとめ、寄り添っていくことも、私たちの大切な役目だと考えています。

その過程は、医療者だけでなく、ご本人にとっても、ご家族にとっても、とても大切な時間です。

命の終わり(終末期)に向き合う時間

病気の進行や老衰により、医療介入による十分な効果が見込めず、治療を続けないという段階に至ることがあります。

そのようなとき、私たちは「命の終わり」に寄り添う段階へと入っていきます。

それは、何もしなくなるということではありません。残された時間を、できるだけ穏やかに、その人らしく過ごしていただくために、必要な医療や支え方を一緒に考えていく時間だと考えています。

これまでの出会いから学んできたこと

命の終わりが近づく時期には、身体にさまざまな変化があらわれます。

その変化に必要以上に戸惑うことなく、ご自宅でできるだけ穏やかに過ごしていただくためには、患者さんとご家族の双方を支えるサポートが大切です。

私たちは、これまで多くの患者さん、ご家族と出会い、「命の終わり」に寄り添うことの大切さを、学ばせていただきました。

穏やかな看取りのために

「命の終わり」に向き合う3つのとき

患者さんが人生の最終段階を迎えるとき、そこにはご本人、ご家族、そして医療・介護に関わる人たちそれぞれに、大切な時間があります。

私たちは、これまで多くの患者さんをご自宅で見守らせていただくなかで、穏やかな看取りのためには、いくつかの大切な段階があると感じてきました。

当院では、「命の終わり」に向き合う過程を、3つのフェーズに分けて考えています。

①備えのとき「命の終わり」への備え

終末期には、ご本人がご自身の思いや希望を言葉で伝えることが難しくなることがあります。

そのため、ご本人が自分らしく最期まで過ごすためには、あらかじめ信頼できるご家族や、医療・介護に関わる人たちと、「これからのこと」について話し合っておくことがとても大切です。

このような話し合いは、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、人生会議と呼ばれています。

訪問診療を受けられる患者さんは、何らかの病気や老いに伴う変化を抱えておられることが多く、初めてお会いした時点からACP/人生会議を意識することが大切だと考えています。

また、その後も病状や生活の変化に応じて、必要なタイミングで繰り返し話し合っていくことを大切にしています。

ご本人もご家族も、その時になって慌てることなく、できるだけ落ち着いて大切な時間を過ごせるように。

②「命の終わり」が近づいたとき穏やかな看取りのために

ご自宅で最期の時間を過ごされるとき、患者さんにもご家族にも、さまざまな不安や戸惑いが生まれます。

私たちは、これまで多くの患者さんをご自宅で見守らせていただくなかで、穏やかな看取りのために大切なことがあると感じてきました。

そのキーワードとなるのが、次の4つです。

  • Accepting(受けとめること)
  • Role(ご家族の役割)
  • Information(知っておくこと)
  • Service(医療・看護・介護の支え)

当院では、これら4つの頭文字をとって、終末期を支える取り組みを「ARIS care(アリスケア)」と呼んでいます。

終末期を支える取り組み

ARIS care(アリスケア)

A Accepting 受けとめること

Accepting(受けとめること)

終末期には、ご家族にとって「命の終わりが近づいている」という現実を受けとめていくことが、とても大切になります。

医療も介護も、なによりご家族が、これまでずっと「少しでも良くなってほしい」という思いで関わってこられたはずです。

そのため、状態が変化していくなかで、その現実を受けとめることは、決して簡単なことではありません。

けれども、最期の時が近づいたときには、良くなることだけを願い続けるのではなく、その方が静かに人生を終えていく過程を見守ることが大切になることがあります。

ご家族がその変化を少しずつ受けとめていくことは、落ち着いた気持ちで患者さんに寄り添うことにもつながっていきます。私たちは、そのお気持ちにも丁寧に寄り添いたいと考えています。

R Role ご家族の役割

Role(ご家族の役割)

終末期を迎えると、それまでご家族がしてあげられていたことが、少しずつ難しくなることがあります。

たとえば、お食事のお手伝い、トイレの介助、声かけ、リハビリなど、これまで患者さんのために大切に続けてこられたことが、思うようにできなくなることもあります。

そのような時期には、ご家族の役割も少しずつ変わっていきます。「何かをしてあげること」から、「そばで見守り、寄り添うこと」へ。

私たちは、その変化をわかりやすくお伝えすることで、ご家族が今の役割を受けとめ、安心して患者さんのそばにいられるようお手伝いしたいと考えています。

I Information 知っておくこと

Information(知っておくこと)

ご自宅での看取りは、多くのご家族にとって初めての経験です。

そのため、「これからどのような経過をたどるのか」「どのような身体の変化が起こるのか」がわからないことは、大きな不安につながります。

私たちは、患者さんがどのような過程を経て最期の時を迎えていくのかを、できるだけ具体的にお伝えすることを大切にしています。

あらかじめ知っておくことで、終末期にみられる身体の変化に必要以上に驚かず、少しでも落ち着いてその時間を過ごしていただけると考えています。

S Service 医療・看護・介護の支え

Service(医療・看護・介護の支え)

ご自宅で穏やかな看取りを行うためには、医療・看護・介護の支えが、きちんと整っていることがとても大切です。

必要なときに相談できること、困ったときに支援が受けられること、そして患者さんとご家族を継続して支える体制があること。その一つひとつが、ご自宅で過ごす安心につながります。

当院では、患者さんとご家族が安心してその時を迎えられるよう、医療・看護・介護それぞれの支援体制を確認しながら、必要なサポートを整えるようにしています。

③「命の終わり」、その後のときご家族の歩みに寄り添う

大切な人とのお別れのあと、ご家族は深い悲しみのなかで、少しずつその出来事を受けとめながら日々を過ごしていかれます。

このような悲しみの過程は、グリーフ(grief)と呼ばれています。

そして、大切な方を失った悲しみを抱えながら、その方のいない新しい日々に少しずつ向き合っていく過程を支えることを、グリーフケアといいます。

悲しみの感じ方や、その向き合い方は人それぞれです。時間をかけてご自身の力で歩んでいかれる方もいれば、誰かの支えや、思いを話せる場を必要とされる方もいらっしゃいます。

私たちは、「看取り」が患者さんをお見送りした時点で終わるものではなく、その後を生きていかれるご家族の歩みにも、そっと思いを寄せることが大切だと考えています。

「終わり」のその先に、思いを寄せる

「はなまる家族会」

桜並木の道を自転車で二人乗りしている後ろ姿

亡くなった患者さんのことを思い出しながら、そのときの気持ちを言葉にすること。

そして、その思いを誰かが静かに聴き、受けとめること。

それもまた、大切なグリーフケアのひとつだと私たちは考えています。

当院では、亡くなられた患者さんのご家族を対象に、「はなまる家族会」を開催しています。

この家族会は、「大切な人を失った」という共通の思いを持つ方々が集まり、当時のお気持ちや、今の暮らしのことを、無理のない範囲で話したり、誰かのお話に耳を傾けたりする場です。

悲しみがすぐに消えることはありません。けれど、同じような経験をした方と時間をともにすることが、少し気持ちを和らげたり、これからの日々を歩んでいく力につながったりすることがあります。

この場が、少しでもそのきっかけになればと願っています。