こんにちは。山本英世です。
開業して3年半が過ぎ、患者さんを通してたくさんのことを学ばせていただき、医療のあるべき姿についていろいろと考えさせられる3年半でもありました。
ごあいさつにも書かせていただいた通り、もともとは大学病院で循環器内科勤務をしており、様々な急性期疾患の治療に携わっておりました。急性期治療、慢性期治療を大学病院で行う中で、在宅での治療を希望される患者さんが多くいらっしゃいました。本人や家族が家での加療を望むのであればその一助を担えればという思いから、訪問診療という形態をメインとした開業をするに至りました。
是非はあるかとは思いますが、本人家族が自宅での加療を望む場合、リスクを理解いただいた上で、中心静脈栄養の開始や輸血、昇圧剤投与、NPPV(非侵襲的陽圧換気)導入などを行い‘あなたに寄り添う家族のように’という理念の元やってまいりました。
訪問診療を行う中で、医療介入の希望にこたえられるクリニックでありたいという思いがありました。今でもその考えは変わっておりません。
様々な患者さんから得たことから、最後を迎える時、何が必要なのかを考え、
① いつか訪れる“命の終わり”への準備
② “命の終わり”を迎えた時
③ “命の終わり”を迎えたその後
この3つのフェーズにおいて私たちクリニックが果たせる役割が何かを考え、取り組んでいることを、お話させていただきます。
前置き、かなり長くなりましたが…
① ③はすべての旅立たれた方に共通しますが、②については自宅で旅立たれた方の取組みになります。
① いつか訪れる“命の終わり”への準備
7割の方が、終末期において意思表示できなくなるとされております。本人が命を全うするために、事前に元気なうちに“命の終わり”(終末期)について信頼できる家族や医療、介護関係者と話し合っておく、この過程をアドバンスケアプランニング(ACP)と呼んでいます。訪問診療において患者さんは何らかの疾患や老衰の進行を患っており、最初の診察時点でのACPを大事にするようにしています。ACPは初診時点だけではなく、疾患の進行など、必要に応じて繰り返すようしています。家族そしてご本人が、その時に慌てないためにも、ACPを実施することは非常に大切であると感じています。
② “命の終わり”を迎えた時
自宅で看取る場合において、“命の終わり”(終末期)を迎える時に何が必要なのか?数多くの患者さんを自宅で看取らせていただき、行うようになった取り組みがあります。
当院ではそれをARIS careと呼んでいます(完全な造語ですが)。
Aはaccepting。患者さん自身の終末期を家族が受け入れる必要性です。それまでは少しでも元気になってもらうため、家族も医療や介護もご本人に少しでも良くなってもらうため、様々な介入をしています。しかし終末期を迎え、死が目前に迫ることで、良くなることを望むことより、患者さん自身の旅立つ過程を見守ることが必要になります。落ち着いた気持ちで見守ってあげるためには、命の終わりが近いことを受け入れてあげる家族の気持ちの変化が必要です。良くなることを希望し続けることは、家族にとってつらいものであり、命に終わりがある限り、どこかで旅立つことを受け入れてあげてほしいと思います。受け入れる気持ちの重要性を支える家族に伝えるようしています。
Rはrole。終末期を迎えた時の家族の役割になります。それまで少しでも元気に過ごしてもらうため、家族がご本人にしてあげていたいろいろいなことは、終末期を迎えると難しくなります(食事やトイレの介助、声掛けやリハビリなど)。受け入れることにもつながることですが、旅立つときにおいて家族の役割がどう変化しどうあるべきかを話すようしております。
Iはinformation。自宅で看取り場合、家族にとってそれは初めての経験である場合がほとんどです。どんな過程を経て、旅立ちのときを迎えるのか。このことを具体的に説明することで、終末期に起きる身体的変化になるべく動じず、落ち着いた時間を過ごせます。
Sはservice。自宅で看取る場合、医療や看護、介護のサービスがサポートできる体制にあるのかどうか?その確認を行うようしております。
いつもの家の中で落ち着いた環境で、穏やかに過ごすために、ARIS careという形に行きつきました。
③ “命の終わり”を迎えたその後
世にgrief care(グリーフケア)という言葉があります。人は死別などによって愛する人を失うと、大きな悲しみである「悲嘆(grief)」を感じ長期にわたって特別な精神状態の変化を経てゆきます。遺された家族が体験し、故人のいない世界に適応していくこの悲嘆のプロセスを「grief work」と呼び、第三者が手助けすることをgrief careと呼びます。必要でない方もいれば、手助けが必要な方もいらっしゃいます。
訪問診療中に、亡くなられた患者さんの自宅近くを通った時に立ち寄って話を聴く、これもgrief careです。こうしたgrief careはとても大切で、当院では“はなまる家族会”を半年に1回行うようになりました。
家族会の対象は亡くなった患者さんの家族です。大切な人を失ったという共通の思いのもと集まり当時の気持ちや今の気持ちを話し聴いたりすることで、少しでも悲しみが和らぎ、前に進むきっかけになればと思います。
まだまだ私自身、はなまる在宅クリニックも発展途上ですが、在宅医療において最後の砦という意識を強く持ちこれからも診療を行っていきたいと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
はなまる在宅クリニック
山本英世